Another Tour has just started
再び旅に出ようと思ったのは、私が日常に悩んでいたからであり、さらに言えばこのままではモトがろくな大人にならなくなってしまうという危機感からでもあった。冬にはモトを何度かスキーに連れていったものの、その合間、私は仕事に追われていたし、私を育ててくれた叔父や古くからの友達が相次いでこの世を去って行ってしまったのに涙を流していた。
4月、モトが4年生になって、ようやく日曜日が休めるようになって、それまでの鬱憤を晴らすかのように思い立って養老渓谷へクルマを飛ばしたりして、その次の週にはモトと新たな旅を始めることにした。
旅は日常の延長でもある。いつも公園に遊びに行くような支度で、3歳のリヒトをマウンテンバイクに取り付けたTOPEAKのチャイルドシートに座らせ、気の進まないモトを誘って、家を出る。土曜日だというのに散歩客で賑わっている根津界隈を過ぎ、不忍池のほとりで休憩。ようやくモトの機嫌が直ってきて、買い物客でごったがえす秋葉原を抜け、日本橋に着いた。
この日は3人でしながわ水族館まで走り、海獣たちのショウを観た。翌朝今度はリヒトは留守番で、モトとふたりで自転車を置いてきた平和島に戻り、横浜の磯子(正確には杉田)までを走った。
1日に走る距離は少ないが、太平洋岸に沿って、海岸線をできるだけ忠実になぞって、大洋州弧を南にたどり、日本から台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアと島を伝って、カナトと同じケープタウンを、一歩一歩、一漕ぎ一漕ぎ目指す。
また新たな旅を始めた報告を、少し離れて暮らすモトの祖父母にしようと思っていた矢先、その祖父、つまり私の義父の急死の報せが入った。未明に遺体を出迎え、何とか葬儀を終えると、今度は入院している私の祖父が危ないと連絡。モトの写真を持って病院に行くと、酸素マスクを付けた88歳の祖父はかすれ声で、そこに置いておいてくれ、あとで見るから、と言ってくれた。結局、それを見たのかどうかわからないまま、2日後に亡くなった。呆然とするしかなかった。
次第に日常が日常でなくなってくる。死は身近になり、生きることの意味を日々考えなくては、翌朝生きていられるかどうかも自信が持てなくなる。非現実的な夢の中での啓示と、この世の現実とが混じりあって記憶を支配する。
この状態から解放されるのには、おそらく時間がかかるだろうと思う。1ヵ月、2ヵ月、いや半年、1年。ひょっとしたら、一生かかっても抜け出せないかもしれない。
しかしこの旅を始めたときには、少なくともそうではなかったのだ。旅を続けることで、前に旅を中断した地点に戻って再びペダルを漕ぐことで、まだましだった人生の状態を取り戻すことができるのではないかと、わずかな希望を抱いて、5月の初旬に、連休の3日を使って毎日走った。三浦半島を回り、湘南海岸へ抜けて大磯に着いた。
そして旅する魂はいま大磯にあって、夢うつつの日常を送る私を遠くから眺めている。
スタートしたときには旅はモトのもので、私がモトの伴走者のつもりでいたが、この1ヵ月で変わってしまったように思える。モトは私のよい伴走者になってくれるだろうか。
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