Love Your Neighbor
きのう仕事場に着く直前に、ママチャリとして使っているLGS-5のリアシフターのワイヤがぶつんと音を立てて切れた。
仕事している間はそんなことは頭になくて、真夜中の帰り道になって、幸いにしてトップで固定されたリアディレイラーのまま、チェーンをいたわるようにペダルを漕いで帰った。
リヒトの保育園の送迎にも使っているので、トップのままだと困る。で、けさはリヒトを送って行って、また急発進なしでゆっくりと仕事場へ(力を入れすぎると腰を痛めかねない)。昼休みになって、ようやく仕事場の近所の自転車修理店に持って行った。
このお店、看板は「スズキ」。軽自動車とスクーター、50ccバイクを専門にしているのだが、オフィス街で周辺に自転車修理の店がないので、この店を頼りにしている人は多いと見える。油染みだらけのつなぎを着たオヤジさんが、ほとんどひとりでやっている。
きょうも先客がいて、会社の自転車を修理しているところだった。「ちょっと待って」と言われて、寒風の中、マイペースの作業を30分待って、ようやく順番。と思いきや、先客が頼んだ領収書を書くのに、手を洗って、奥の事務机に腰掛けて、宛名を何度も大声で確認して‥‥。
ママチャリとして使っているとは言え、海外産MTBの端くれ、LGS-5の微妙なシフターが直せるだろうか、とちょっと不安になり、「あの、これ、直せますかね」と弱気に頼んでみる。
いかにも新聞配達の質実剛健自転車しか直せそうにない修理工場だ。オヤジさん、黙ったまま、見たこともないと言った表情でシマノのトリガーシフターを眺めている。手近にあったドライバーで分解しようとして、大き過ぎたのかそれを投げ捨て、小さいドライバーに持ち変える。まるでインドか中国の自転車屋。海外でワイヤが切れてしまったと思えば仕方がない、と自分に言い聞かせる。
中途半端に差し込まれていたワイヤを乱暴に抜いたかと思うと、独り言のように「あったかな」と呟きながら、壁にかかった薄汚いウォールポケットのどこかから、シマノのパッケージに入ったワイヤを取り出してきた。数十年前の軽トラックのパンフレットが無造作に入っているようなポケットから、そんなものが出てきたことに驚く。
「空気入れちょっと貸して」「サンドペーパーあるかな?」と次から次へ顔見知りらしき人たちが寄って行く。そのたびに「いいよ」とか「粗いのしかないよ」とか、言葉短かにしかおやじさん、答えないのだけれど、みんなしばらく作業を見ていると帰って行く。
ワイヤを抜いたものの、もともとのワイヤの取り回しがどうだったか思い出せないふうで、ちょっと苦労する。思わず口を挟むと「カゴと当たってるから、切れるんだよ」ともともとの取り回しが悪かったのを怒られた。これはとんでもないことになりそうだ。カゴを着けるのが間違いなら、取り外してもいい、と言うと、「でもカゴはいるんでしょ」と、ああでもないこうでもないというふうにワイヤーを試行錯誤して取り回していく。
ワイヤを張り替えると、リアディレイラーの下でワイヤを引っ張りながら、調整。ローに入りにくい。「元からローに入らなかったんじゃないの?」そうかもしれない。いちばん下のギアなど滅多に使わないから。ぶつくさ言いながらも、なんだか口数が多くなってきて、機嫌が良くなってきたみたいだった。
無事、トップからローまでスムーズに入るようになると、オヤジさん、なんだか誇らしげな表情で「はい、できたよ」と、チェーンに注油し、ついでにコンプレッサで空気を足してくれた。
LGS-5のペダルは、見違えるほど軽くなっていた。そうだ、こういうオヤジさんのチャレンジ精神が町を支えてきたのだ、といまさらながら思い至った。もっと自分の足元を信じてみよう。
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